装いと宇宙
生きる上でのさまざまな場面には、それぞれにふさわしい装いが求められます。
顔や身体の表面に何をまとうかを通じて、人は社会に現れ出でます。
さらに宗教的場面では、装いは単なる社交的ファッションを超えて、スピリチュアルなものとして神聖なものや宇宙にも通じるものとなります。
事実、「化粧」を意味する cosmeticは、「宇宙的 cosmic」と語源的につながっています。
そうした意味で、「装い」は単に身体の表面を覆うものではなく、自分自身の内面と外の宇宙全体とを媒介し結びつけるインターフェイスの役割を果たす、
きわめて重要なファクターといえます。
野生の思考への回帰
1960年代頃から、画家パブロ・ピカソによるアフリカ部族造形への傾倒や、民族学者レヴィ・ストロースによる「未開」の再発見と再評価などを通じて、
近代以前の非ヨーロッパ圏の文化・文物に関心がたかまりました。
西欧列強による植民地支配の影響もあって「未開」とも「野蛮」ともいわれ、軽蔑され否定されていた世界各地の部族の文化や精神の中には、
近代ヨーロッパの合理主義のそれとは異なる合理性があり、近代人が失ってしまった自然との密接なつながりや力強い生命感が見出されたのです。
ジャズやレゲエなどの音楽、芸術、思想を通じて、部族文化は先進諸国に受け容れられていきました。
タトゥー=入れ墨もまた、各地域独特の多種多様な造形や、シンボリックでスピリチュアルなメッセージ性が認知され、評価されていきました。
トライバルタトゥーの精神性
服装や化粧と同じように、タトゥーもまた、自分自身の内面と外なる宇宙をつなぐ役割を果たします。
非近代西欧の部族文化には簡単にはまとめられない多種多様な特徴がありますが、自然崇拝(アニミズム)、
呪術や呪物崇拝(フェティシズム)など、近代人が忘れかけた精神性が見られます。
そのような部族文化の中で、タトゥーは自然界に宿る精霊と一体化するため、親や恋人との同一化、あるいは、
戦場で倒した強敵の霊を自分の中に取り込むためなどといった意味をもったメッセージやシンボルをあらわしました。
儀礼的な意味をもつタトゥーもあります。タトゥー=入れ墨は、皮膚に針や刃物などで傷を付け、墨などの色素を埋め込む技術です。
その施術にはたいへんな痛みがともないます。
その痛みを乗り越えてタトゥーを入れることは、部族社会の中で一人前の戦士であったり、
成熟した女性であったりすることを認められる通過儀礼(イニシエーション)の役割をはたしていました。
トライバルタトゥー
tattoo デザイン